二十歳の頃、うつ病というか対人恐怖に苦しんでいました。下宿の一室に閉じこもり、人の流れが途切れた頃に買い物に出るのです。
こんなとき、病人は「このままではいかん」と日々自分を責めるのです。そう、何もできないのです。
ある日、決死の思いて未経験の職業を10ほどリストアップしました。先ず、毎日飽きることなく読んでいた小説を自分で書いてみようとしました。そして、同じ下宿の友人に読んでもらいました。彼はまつたくの無反応でした。彼ほどのいいやつが何も言わないことが「やめた方がいい」というアドバイスでした。
リストの二番目はカメラマンでした。写真を撮ったこともないし、カメラを持っていない私が、写真学校で「お金がないので入学金を免除してほしい」と言えたのです。免除されたことより、学校職員の前で交渉できたことがミラクルでした。
クラスで一人だけカメラを持っていないことはそれほど辛くはありませんでした。
やがてカメラを手に入れてから不思議なことが起こりました。ファインダーを覗きながらだと、どんな所にも入って行けるのです。「勝手に入るな」と怒鳴られたことも。
私はうつ病を抜けられたと思っていたのですが、仲間たちとはかなり毛色の変わった写真を撮っていました。
先生にすすめられて写真展を開いた時、有名な評論家が雑誌に論評を載せてくれました。「この若いカメラマンの目は澄んでいる」。
いやいや、心の病み上がりだからと思いながらニンマリしていました。今でも私が選ぶ被写体はかなり変わっています。
0コメント